・「ガールズ&パンツァー」の魅力(その3)
前回「「ガルパン」の最大の特徴は戦車描写が精密なこと」と書いたけど, その「戦車描写の精密さ」にもメリハリがあって, 戦車のデザインや動きにはそれこそビス一本の位置や履帯の動き方にまでこだわるものの, ミニスカートで長髪の女の子たちが軽々と戦車を操縦する,というあたりは見事に省略とウソをついている.
多分,このあたりが水島監督のすごさだと思うけど, ミリオタ的なこだわりの部分と萌えアニメ的なキャラを魅せる部分のバランスが絶妙で, 水と油的な両者をうまく一つの作品にまとめあげている印象.
実のところ,監督の水島努さんって「ガルパン」以前は全然知らなかったんだけど, ググってみると,「クレヨンしんちゃん」の劇場版とかを手がけている人だそうで, お客さんを楽しませることに手慣れた,「サービス精神」に富んだ人だろうなぁ,という印象.
観客は「リアルな戦車戦」や「カッコよく戦車を操縦する可愛い少女たち」を見たいのであって, 「戦車のドキュメンタリー」や「操縦教本」を見たいわけではない, そういう監督の方針がスタッフ全体に徹底しているから, 見せるところと省くところ,リアルなところと虚構のところがうまくバランスして, 「ガルパン」はきわめて上質の「エンターティメント」作品になっているように思ふ.
さらに言えば,水島監督の「サービス精神」って「観客」のみに向いているわけではなく, 「ガルパン」世界に出てくる全てのキャラや戦車にも向かっている気がする. その典型例がアンツィオ高校のアンチョビ.
TVシリーズでは第7話で「次はアンツィオです!」とタイトルになるものの, 実際のストーリーでは「瞬殺されてガックリ」なカットしかなかったアンチョビが, OVAの「これが本当のアンツィオ戦です!」ではしっかり主役を張って人気を集めるし, 劇場版ではさらにそれに輪をかけた活躍をしてしまう.
同様のことは,TVシリーズではセリフをもらえなかったアッサムが, ドラマCDや劇場版ではセリフや出番をたっぷりもらえたり, TVシリーズでは出落ち扱いだったアリクイさんチームが劇場版ではずいぶん活躍したりと, 水島監督は,全てのキャラにそれなりの見せ場を用意してあげているように思う.
TVシリーズでは悪役的な立ち位置だったアリサやエリカが, 劇場版ではその個性を守りつつ,ちゃんと見せ場が用意されているとか.
自分の作ったキャラにすらここまで気を使う人なら, スタッフやら声優にはもっと気を使っているだろうから, ここまであちこちに気を使うとストレスで倒れるんじゃないか,と心配したくなるくらい(苦笑
映画やドラマの登場人物が実在しないのは分かってるし, ましてアニメのキャラなんて「絵」にしかすぎないのも十二分に分かっているけど, やはり感情移入しながら見てきたキャラたちには不幸になって欲くないし, その意味で劇場版のラストでアンツィオの三人がいかにも楽しそうに歌いながら車で帰っていくシーンには, 「ああ,よかった..」と涙腺を刺激されてしまうのであった(続く)